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札幌地方裁判所 昭和48年(ワ)616号 判決 1973年11月16日

原告 尾中正一

右訴訟代理人弁護士 佐藤文彦

同 佐藤義雄

被告 兼山丸善株式会社

右代表者代表取締役 小野正治

被告 鈴木俊雄

主文

一  被告兼山丸善株式会社は原告に対し別紙目録記載の建物を明け渡せ。

二  被告兼山丸善株式会社は原告に対し別紙目録記載の建物に関する昭和四五年一一月四日札幌法務局受付第八四九五三号停止条件付賃借権仮登記の抹消登記手続をせよ。

三  被告鈴木俊雄は原告に対し別紙目録記載の建物から退去してこれを明け渡せ。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告

主文と同旨の判決。

二  被告ら

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四七年七月二五日、別紙目録記載の建物(以下本件建物という。)を競落し、その所有権を取得した。

2  被告兼山丸善株式会社は、昭和四八年四月二〇日頃、被告鈴木俊雄を右建物に居住させてこれを不法に占有するに至った。被告鈴木俊雄は右日時頃から右建物に居住してこれを占有している。

3  また右建物に関し、被告兼山丸善株式会社は昭和四五年一一月四日札幌法務局受付第八四九五三号の原因同年一〇月二一日設定契約、条件同年五月三〇日金銭消費貸借の債務不履行、存続期間契約の日より満三年なる停止条件付賃借権仮登記を有している。

4  しかし、被告会社は右仮登記をもって原告に対抗できず、右仮登記は抹消を免れない。

すなわち、訴外株式会社北洋相互銀行は昭和四三年一二月二四日本件建物につき根抵当権の設定を受け、昭和四四年一月二九日その登記を経ていたが、訴外木下直勝は昭和四五年一〇月右根抵当権の移転を受けてその登記を経、さらに被告会社は昭和四六年一〇月五日訴外木下から右根抵当権の移転を受けてその登記を経、これにつき任意競売の申立をした結果、前記のとおり原告が競落するに至ったのである。一方、前記仮登記は、訴外木下直勝を権利者として昭和四五年一〇月二一日の設定契約に基づき同年一一月四日受付をもってなされたもので、右仮登記上の権利はその後被告に譲渡され、その旨の登記も経たものである。

しかして、停止条件付賃借権が短期賃貸借としての保護を受けるためには、競落許可決定確定前に条件が成就しなければならないところ、本件では未だ条件が成就していないから、被告会社には賃借権が存在せず、今後条件成就を理由として競落人たる原告に対し賃借権を対抗することもできないものである。

5  よって被告両名に対し本件建物の明け渡しを求め、あわせて被告会社に対し仮登記の抹消を求める。

二  被告らの答弁

1  請求原因1項および3項の事実は認める。

2  被告会社は昭和四六年一〇月五日訴外木下直勝から原告主張の根抵当権および仮登記上の権利をその被担保債権である昭和四五年五月三〇日貸付返済期一年後の四五〇万円の債権とともに譲り受け、右根抵当権の実行により一部の弁済を受けたが、なお残債権があるので、本件賃借権は有効である。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  また≪証拠省略≫によれば請求原因2項の事実が認められ、また請求原因3項の事実は当事者間に争いがない。

三  そして≪証拠省略≫を総合すれば請求原因4項の客観的事実関係が認められ、反証はない。

四  さて、建物が競落された場合、その建物に関して競落人に対抗できない権利の登記は抹消すべきものとなる。

本件において被告会社は原告が競落した本件建物につき停止条件付短期賃借権の仮登記を有するのであるが、仮登記が抹消すべきものであるか否かはその仮登記によって順位を保全される権利が競落人に対抗できるか否かによって決まるから、被告会社の右仮登記が抹消すべきものであるか否かは被告会社がすでに短期賃借権を取得しそれが現在原告に対抗できるものであるか否かおよび被告会社が未だ短期賃借権を取得していないとすれば今後原告に対抗できる短期賃借権を取得できるか否かによって決まるのである。

ところで、任意競売手続開始決定の債務者に対する送達または競売申立の登記によって競売の目的物に対する差押の効力が生ずると、その後債務者が右目的物件に関してする一切の処分行為は担保権者および競落人に対して効力を有しないのであるが、この理は新たな処分行為に限らず短期賃借権の法定更新についても妥当する(最判昭三八・八・二七民集一七・六・八七一)ほか、停止条件付短期賃借権についての差押の効力発生後の条件成就についても妥当する。したがって、本件においては被告会社に関し今後停止条件が成就したとしても被告会社は原告に対抗できる賃借権を取得する余地はないものといわなければならない。

そこで、問題は、被告会社がすでに短期賃借権を取得しているか否かであるが、被告会社が有したとみられる停止条件付短期賃借権にどのような内容の停止条件が付せられていたか、そしてその停止条件が本件競売手続の差押の効力発生時までに成就していたかについてはこれを認めるに足りるなんらの証拠がない。

しからば、被告会社の有する本件仮登記は原告に対する関係で存続を許されないものというべきである。

そして、かかる仮登記は、それが抹消すべきものであることが明らかな場合には競売裁判所の嘱託により競落後の処置として競売手続上で抹消されるのであるが、抹消すべきものか否かが明らかでない場合にはそのまま残されるのが普通であり、この場合には競落人において仮登記権利者に対する抹消登記請求訴訟を提起できることはいうまでもない。

五  被告両名は本件建物を占有するについて正当な権原を有することの主張立証をしない(答弁2項の被告らの主張は未だ不十分である)。

六  よって原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲守孝夫)

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